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第1回
~タイムリーに原価管理できる仕組み~
中国の生産現場を訪問して現場カイゼンの方法を説き、自らカイゼンできる人材を育成する「カイゼニスト松浦敏彦」。トヨタ生産方式に基づく豊かな経験を活かし、今回は一流ホテルやブランドブティック等の家具を受注生産するFurniture LABOの生産現場でカイゼンに取り組む。
一流ホテルの椅子やベッドなどの家具類、ブランドブティックのディスプレイ用棚、バーカウンター等の一品モノを受注生産している上海富瀾家具有限公司(Furniture LABO)は、董事長の堀雄一朗が立ち上げた新しい会社だ。
堀は丸紅を退社後、 04年に 31歳で FUSION TRADINGという貿易会社を設立して家具や雑貨の輸出入業を始めた。しかし、委託工場での生産では品質が安定しないという課題があり、フランスの老舗家具メーカーLAVALと資本提携して、08年に自社工場を立ち上げるに至った。その後、受注量は増加の一途をたどり、土日返上でフル回転の生産が続いている。
オーダーメイド生産の流れは、まず基本設計図に基づいて詳細図面を起こし、原寸大のサンプルを制作。顧客のサンプル確認を得て1〜数百台単位の生産を開始する。顧客による仕様確認の遅延やサンプルの修正など、オーダーメイドならではの不確定な要素が多く、生産管理に苦労している。
今回のカイゼン活動は、現状の設備とヒトで生産効率を3 0%向上させ、さらに3 0%の原価低減を実現することを目標とした約半年間の取り組みとなる。カイゼン活動の初日、カイゼニストの松浦敏彦は経営トップの堀と目標をすり合わせた。「今日の製造原価がいくらだかすぐに把握できますか」との松浦の質問に、堀は「うちは量産ではなく一つひとつが違うので、生産前の正確な製造原価の把握は難しいんですよ」と答えた。
「それはアカンな」と松浦は低い声で言った。そして、「一品モノの受注生産だからこそ、タイムリーな原価管理をせなアカン」と続けた。
今回、カイゼンチームのプロジェクトマネージャーとなった副総経理の冨田悦雄は日頃、生産管理部のトップを担っており、プロジェクトマネージャーと設計者を統括している。見積もり書を作成する際は、材料の拾い出しと加工工数を勘案して金額をはじき出す必要がある。冨田は「見積もりを作成する時間は限られていますから、材料費や労務費を精査する余裕はなく、概算で計算するしかないんです」と話す。
最終的に会社がどれくらいの利益を出せるかはこのときの積算が重要であり、特に加工工数の正確な把握が必要不可欠だ。松浦は「一品モノといっても似たような事例を集めて3、4のパターンに区分け、分類できるはず。各分類の基準工数を作ることが重要だ。そして、それは1カ月前の数字ではなく、最新の数字でないと意味がないな」と指摘した。
原価管理を行うためには、分かりやすい指標を用いることが重要である。基本となる指標は「工数生産性」だ。工数生産性の計算方式は、総原価額を総工数で割ったものとなる。総工数は、同社でいえば作業時間となる。作業時間はモノづくりに関係する作業者の残業時間を含む総勤務時間数とし、管理者の勤務時間は除外する。
この工数生産性が意味するものは1時間当たりの作業単価である。まずは現状の生産性を各工程別に計算し、どうやったら作業時間を短縮して生産性を向上させられるかを考えてカイゼン策を講じるのだ。そして、その上でカイゼンの定量的な目標設定を行う。「分析のないところにカイゼンはない」と松浦は語気を強めた。
タイムリーな原価管理ができる仕組みを構築すれば、カイゼンの目標に向かってスタッフの意識向上を図ることができる。それは、 現場が使える数字であることが重要だ。生産性のほかにも、「手直し工数」「納期遅れ件数」「クレーム件数」「付加価値生産性(売上高― 外部購入価値)」「原価低減額」等がある。例えば「手直し工数」は、椅子の脚100本を製造するのに100時間かかったが、そのうち2本が検査でNGとなり、作り直したところ3時間かかってしまったという場合の指標化である。
こうした情報は毎日、現場に掲示して作業員に周知させるとともに、カイゼンの方法を提示して実施すれば、 毎日のカイゼン効果が把握でき、現場スタッフへの指示徹底がしやすくなる。松浦は「カイゼンの成功事例を発表、掲示して、成果を上げた人には報奨金を出してもいい」と付け加えた。
タイムリーな原価管理ができる現状の見積もり案件をこなすだけで精一杯だと嘆く冨田に、董事長の堀は「労務管理用の生産現場改善システムのデータが利用できるんじゃないか」と言った。同社では作業員の給料計算を行うために各作業員の作業時間をバーコード入力して管理するシステムを構築している。このシステムを活用すれば、タイムリーに工数生産性等の指標を算出でき、見積もりの精度向上や現場作業のカイゼンに役立てられる。中国の生産現場においても、このようなシステムの導入はもはや必要不可欠のものとなっている。
●Furniture LABO(その1)
●Furniture LABO(その2)
●Furniture LABO(その3)
●Furniture LABO(その4)
●Furniture LABO(その5)
●Furniture LABO(その6)